今回,このシリーズの各回で次のテーマを綴ってきた:
【第1回】 企業の中のライフサイクル
【第2回】 製品ライフサイクルの変化:収益ポイントのシフト
【第3回】 業界や戦略で異なる製品ライフサイクルにおける利益ポイント
【第4回】 PLMの定義、そして業界構造
【第5回】 実装課題
前回の実装課題では、PLMとERPを中心に実装の際の統合課題に触れた。このシリーズの半ばで述べたが、PLMは、企業の体力強化に寄与するためのビジネスアプローチであり、単なるテクノロジーでない。それは図1(3つの要因:人、プロセス、テクノロジー)のような要素で絶え間なき改善が必要である。
過去の大量生産の時代は生産側と言う大きなポイントソリューションないし閉じた世界での物理的な要素、すなわち素材、部品、コンポーネント、そして製品のインバウンド&アウトバウンド・サプライチェーンで利益を確保し、QCDを主体に競争力も維持出来た。 しかし、最近のより顧客に密着したカスタイズした『商品』や一品もののデリバリーでも大量生産と同じようなQCDが要求されている。
そうした場合、顧客の要求、それを実現するための製品に関する定義情報、すなわち製品戦略、要件、実現機能、利用要素技術、展開&構成情報、生産&製造プロセス、その他ライフサイクルに関連した情報などに確かなるマネージメントがなければ実現出来ない。実はこれが企業のもっとも重要な資産であり、企業が死守しなければならない知的資産(IP:Intellectual Assets)である。実際に物理的に造られている製品はこの製品定義情報をプロトタイピングしたに過ぎず、結果的に優れた製品も不良品も原点はライフサイクル初期の製品定義にあると言っても過言ではない。
一般的なサプライチェーンは所謂、有形資産(物理的な資産、製品)のマネージメントによりその重要さは『目に見える物』の効率追求故、企業の中では理解を得易かった。しかし、IP、すなわち無形資産(バーチャルな資産、製品)は、往々にして理解得難いものであった。しかし、世界のビジネス環境はかなり以前から変化をし、このIPをマネージメントし、新製品創出や顧客の要求に競争優位をもって、製品のデリバリーを行うようになって来た。『競争上、不可欠』であると言われる所以である。
また、実装に際しては、人、プロセス、そしてITの継続的改善の中で、特にプロセスについては実際、確かなものがあるか、プロセスマッピング、すなわち『プロセスの棚卸し』を行い、残すは何か、死守しなければならないものは何か、持ち合わせて無いものは何か、そして不要なものは何かを明らかにし、改善&改革のための自社のビジネス課題(例えば、QCDとかイノベーション)、またビジネスを行っている領域での社内&外部環境を見極め(経営課題)、実装計画を小手先でない利益&効果を可視化して策定し、MTH(Must to Have:やらねばならない)のレベルにしなければならない(図2:MTH vs. NTH参照)。NTH(Nice to Have:あれば良いの希薄)のレベルならば、金(資源も含め)を捨てることになるのでその計画は中止すべきだろう。
これら改善&改革のために上流のPLM側で下流側(ERP&SCM)と強調しなければならないポイントを図3(PLM実装)にあげておく。
CIMdataでは、数年前に図4(PLM-ERP/ERM)に示すように、コンテキスト指向な製品定義ライフサイクル(バーチャルな製品)とトランザクション指向の生産ライフサイク(物理的な製品) の二つの領域の中で各種の要素が将来的に成長すると見ている。折しも最近のPLM業界の合併&併合の動向を見ていると、CAD/CAMやデジタルマニファクチャリングを持つ大手PLMベンダーが産業オートメーション技術を得意とする企業と合併を進め、より強固なPLM製品のデリバリーを目指したり、大手ERPベンダーがハイテックや食品&飲料を得意とするPLMベンダーを買収するなど話題に事欠かない。 また、SCM領域でそのパフォーマンスメジャメントを提唱して来た米国非営利団体SCC(サプライチェーンカウンシル)は従来のSCOR(Supply-Chain Operational Reference)モデルに加えて、最近、設計側のパフォーマンスメジャメントを行うDCOR(Design-Chain Operation Reference)モデルをリリースした。正常進化の一つの結果である。
これらの流れは、昨今のビジネスモデルが物理的製品のマネージメント(生産&ロジステック)だけで不十分で、上流の設計を始める時点、いやその前のプロセスから、生産&ロジステックを含めたライフサイクルのマネージメントが求められていることを明確に表すものである。
では、ここで本シリーズのまとめをしておく:
(1)如何なる製品もライフサイクルが存在する。
(2)ライフサイクルにはバーチャルな製品(製品定義)と有形な製品(物理製品)がある。
(3)製品の利益を得るライフサイクルのポイントは企業のポリシーによって異なる。
(4)大量生産による生産側だけのプロセスで利益を得る過去のモデルから、より顧客(グローバルであり
ローカル指向な)に密着したタイムリー且つ複雑な製品定義を行い生産をするモデルに変化している。
(5)過去のモデルで構築されたビジネスプロセスやIT資産ではグローバルな競争に勝ち抜く事は出来ない。
(6) その為に製品定義のライフライフマネージメントを行うPLMアプローチは企業にとって不可欠である。
(7) 3次元CADをはじめとするデジタルな製品モデル&ライフサイクル展開はPLM展開の大きな要素である
(本シリーズでは触れてないが)。
(8) PLMの進展の過程、またERP&SCMの進展の過程に於いて、もはやその相互依存性は不可欠であり、
それ無くしては企業の業績向上寄与にはならない。
(9) 実装に際しては、PLMとERP&SCM間のオーバーラップやBOMのあり方を含め歴史的なしがらみなど
あるが、全社全体(関連企業含む)の利益を考え組織間でベストな結果を出さなければ意味がない。
(10)製品定義情報(バーチャル製品)は企業にとって最重要であり、新たな製品を創出する源でもある。
物理的な製品は製品定義情報なくしては生まれない、所謂、クローズド・ループである。
(11)そして、継続的な『プロセスの棚卸し』をし、プロセスの鮮度を落さないこと。3次元CADの黎明期に良く
言った決まり文句があった。それは『新しい道具』には『新しいお作法』、すなわち新しいプロセスが
必要である、CADはポイントソリューションであるが、その『心』は、本シリーズのサブタイトルである
『PLMとERP&SCMの正常進化』にも通じる。
ビジネスモデルも変わり、その中で生き抜くには、ビジョンと戦略など含めて『人』の考え、実行をする『プロセス』、何を残し、何を捨て、そして何を変えるかであり、そしてそれを支援する『IT』であり、もはや大量生産時代の遺産では生き残れない。勿論,ITの正常進化となるWebやSOAなども考慮にいれなければならない。
ぜひ、本シリーズの読者は、PLMは単なるテクノロジーで無いことを肝に銘じ、自社のビジネスは何か、飯の喰いどころを理解し、『人』、『プロセス』、『IT』の継続的改善・改革を進め、『知行合一(王陽明)』でクローズド・ループをもって、ぜひとも PLMとERP&SCMの正常進化をさせていただければ幸いである。 (完)
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【江澤 智】
コンサルタント(ソフトウェア)会社並びに大手専門社にて、日本並びに米国にて開発エンジニアとして基本ソフト(OS、コンパイラー、通信)の開発に従事、 その後、 地図情報システムやエキスパートシステム、CASEシステムなど海外の先端情報技術の調査と市場投入&実装を経験。1980年代後半から製造業に特化した技術情報管理システム(PDM含む)などの調査&市場開発、システム構築およびユーザー企業への導入支援に従事。1995年6月 メタリンク株式会社(http://www.MetaLinc.co.jp)を設立。米国CIMdata社日本代表を務め、内外企業のPLM/PDMのコンサルテーション、技術情報システム構築全般 に渡るベンダー向け並びにエンドユーザー向けに戦略コンサルテーションを幅広く実施。米国ICM社&アリゾナ州立大学のCMII(コンフィグレーションマネージメントII)の認定所有。